春の自由研究
おしながき
今回はちゃんと音楽の話。
ただ、非常にニッチな話。
嫌なら見るな!嫌なら見るな!
前置き
ドロップチューニングが好きです。
家にあるレスポールは
ほぼ常にドロップC(まれにドロップC#)になっております。
聴いている音楽の影響はご多分にあるのだろうとは思うのですが、
それ以上に、
パワーコードを指1本で押さえられるところや、
4〜6弦開放の音がグワーンと唸る感じ(頭悪そうな物言い)が
たまらなく好きなのです。
さらに、レスポールの、
太い歪んだ音や華美すぎないクリーンの音、
官能的な曲線美と、それでいてロックアイコンとしての端正なかっこよさ
そうした理由から、
レスポール以外を弾く気があんまりしないのですが、
困ったことに、他のギター(ストラトキャスターとか)より弦の長さが短いゆえ、
チューニングを下げるのに向いている、とは言えないのです。
加えて、
レスポールに限らず、弦の張力が弱いのは
ネックの反りや、弦のビビり(なんかブイーンってなるやつ 頭悪)、
音程が安定しないこと、など
色々気にかけなければならないことが多くて、
かと言って、張力を稼ぐために弦を太くしすぎては、
あの少し弛んだ甘いトーンを得られないジレンマに陥るわけです。
逆に言えば、
チューニング、弦の太さ(ゲージ)、弦の張力(テンション)
この3つの関係性を見ていき、
さらに、
弦の長さ(スケール)についても考慮したうえで、
各弦のテンション、ネック全体にかかるテンションを
一般的なゲージを張ったレギュラーチューニングと同等
あるいは、少し緩いくらいにすることができれば、
一つの妥協点にできるわけであります。
というわけで、
チューニング、ゲージ、テンションの関係を
実際に計算して検証してみました。
自由研究にふさわしい少しお勉強的なアレです。
あと、前置き特有のこの変な話し方もやめます。
<要約>
チューニング下げるの好きだけど、
ただ闇雲に弦がダルダルなのも頭悪そうだし、
ネックの反りとか気になる点も多い。
でも、太すぎる弦張るのも何か違う、っていう感もある。
じゃあ、
レギュラーで張った時と同じ、あるいはそれより少し緩み気味の
いい感じのテンションにするには、どの程度のゲージを使えばいいか
弦・ネックにかかる張力とかいろいろ考慮して妥協点を考えるよ。
余談 チューニング概論
- レギュラーチューニング
5弦Aの音を 110 Hz として、
6弦から E、A、D、G、B、E としたチューニング
(「家でじーちゃん、ばーちゃんイイ事してる」と覚えよう)。
- ダウンチューニング
レギュラーチューニングより音を下げるチューニングの総称
(という認識でいるけど、明確な定義は謎なアレ)。
- 〜トーンダウンチューニング
レギュラーチューニングから
ホールトーン(1音下げ、つまり D、G、C、F、A、D)とか、
ハーフトーン(半音下げ、つまり D#、G#、C#、F#、A#、D#)とか、
下げたチューニング。
後者はハーフステップダウン〜とかハーフダウン〜とも言う。
- ドロップチューニング
レギュラー〜の 6弦を D に変えたものをドロップ D 、
ハーフトーンダウン〜の 6弦を C# に変えたものをドロップ C# 、
ホールトーンダウン〜の 6弦を C に変えたものをドロップ C …など。
レギュラー〜、ハーフトーンダウン〜、ホールトーンダウンの
6弦を4弦の1オクターブ下にしたチューニングって感じ。最強。
前置き がいなー。
計算方法
ダウンチューニング時のテンションの求め方
弦の振動数 fn(Hz)は、
弦の長さ:l(m)、弦の張力:s(N)、
弦の線密度:ρ (kg / m)、n 倍振動(n = 1 ,2 ,3…)
を用いて下図のように表せられる。
ここで、
同じスケールのギターを使い(つまり、l が同じ)、
各メーカーの弦の線密度に差が無いと仮定する(つまり、ρ が同じ)。
また、
n 倍振動は倍音の周波数のことで、
ここではあくまで実音について見ているので、n = 1とする。
さらに、
レギュラーチューニングの弦の張力を s、振動数をfn
下げたチューニングの弦の張力を s'、振動数をfn‘として、
上図の下式をそれぞれ求めると、
s =4 l 2 ρ fn2
s' =4 l 2 ρ fn‘2 となる。
この2式から、以下の式を作ることができる。
つまり、
ダウンチューニングの張力 s‘ は、
レギュラーチューニングの張力 s を基準として、
チューニングを下げていくごとに、
その振動数の比の2乗( fn’/fn )2 に比例して下がっていく、
ということがわかる。
そこで、
- レギュラー、ダウンチューニングの各弦の周波数
(上式の fn 、fn‘)を求め、
- 有名弦メーカー D'Addario の海外公式サイトに公開されている
各ゲージのテンションを基準( s )とし、
- 各ゲージのダウンチューニングのテンション( s‘ )を計算から求めて、
- D'Addario のレギュラーチューニングのテンションと同じにするなら、
チューニングを下げた時にどの程度太いゲージの弦にすればいいかを見ていく。
ミディアムスケールへのテンションの補正
さらに、
D'Addario のサイトに乗っているテンションは、
ロングスケール(式中の l が 648 mm)で計測していると
おそらく思われるので(サイト中に記述なし)、
上の方法で求めた各ゲージのテンションを
レスポールなどに採用されているミディアムスケール( 628 mm )の
テンションに補正する。
1番最初の式において、
ロングスケールの弦の長さを l1 、張力をs1 、
ミディアムスケールの弦の長さを l2 、張力をs2 とする。
ここで、
チューニングが同じなら、各弦の音程つまり周波数 fn は同じであるので、
以下の式が成り立つ。
実際に、
l1 = 648 mm 、 l2 = 628 mm を代入すると、
s2 = 0.939224・s1 となる。
この式を使って、
ロングスケールで計算したダウンチューニングのテンションを
ミディアムスケールでのテンションへと補正していく。
高校物理の内容なのに、案外 実用的な計算ができることに吃驚。
文系は置いていくスタイルなので、
この記事見終わったら、筆者の私の気持ちを考えてください。
数値
計算に使う数値は以下。
ただ、一応のアレとして羅列しただけなので、
結果だけ気になる人もそうじゃない人も読み飛ばすのがオススメです。
スマホで見る人を◯していくスタイル。
それぞれのチューニング時の各弦の振動数は以下の通りとなる。
- レギュラーチューニング
1弦E(E4)= 330(Hz)
2弦B(B3)= 247
3弦G(G3)= 196
4弦D(D3)= 147
5弦A(A2)= 110
6弦E(E2)= 82
- ドロップ D チューニング
1弦E(E4)= 330(Hz)
2弦B(B3)= 247
3弦G(G3)= 196
4弦D(D3)= 147
5弦A(A2)= 110
6弦D(D2)= 74
- ドロップ C# チューニング
1弦D#(D#4)= 311(Hz)
2弦A#(A#3)= 233
3弦F#(F#3)= 185
4弦C#(C#3)= 139
5弦G#(G#2)= 104
6弦C#(C#2)= 78
- ドロップ C チューニング
1弦D(D4)= 294(Hz)
2弦A(A3)= 220
3弦F(F3)= 175
4弦C(C3)= 131
5弦G(G2)= 98
6弦C(C2)= 65
- レギュラーチューニング
D'Addario の海外公式サイトから
EXP STRINGS シリーズの5つのゲージのテンションを計算に使っていく 。
- Super Light(0.009 - 0.042 inch)
1弦E(E4)= 5.940(kg)
2弦B(B3)= 4.990
3弦G(G3)= 6.670
4弦D(D3)= 7.170
5弦A(A2)= 7.170
6弦E(E2)= 6.710
- Super Light Top / Regular Bottom(0.009 - 0.046)
1弦E(E4)= 5.940
2弦B(B3)= 4.990
3弦G(G3)= 6.670
4弦D(D3)= 8.340
5弦A(A2)= 8.840
6弦E(E2)= 7.940
- Light(0.010 - 0.046)
1弦E(E4)= 7.350
2弦B(B3)= 6.980
3弦G(G3)= 7.530
4弦D(D3)= 8.340
5弦A(A2)= 8.840
6弦E(E2)= 7.940
- Medium / Blues / Jazz(0.011 - 0.049)
1弦E(E4)= 8.890
2弦B(B3)= 8.070
3弦G(G3)= 8.440
4弦D(D3)= 9.660
5弦A(A2)= 9.800
6弦E(E2)= 8.930
- Light Top / Heavy Bottom(0.010 - 0.052)
1弦E(E4)= 7.350
2弦B(B3)= 6.980
3弦G(G3)= 7.530
4弦D(D3)= 11.340
5弦A(A2)= 11.930
6弦E(E2)= 9.980
さらに、テンションの最適化がされた(という謳い文句の)
XL Balanced Tensionシリーズ(EXL シリーズ)についても計算に使っていく
(こちらは日本サイトで公開)。
- Balanced Tension Super Light(0.009 - 0.040)
1弦E(E4)= 5.965
2弦B(B3)= 5.951
3弦G(G3)= 5.861
4弦D(D3)= 6.024
5弦A(A2)= 6.306
6弦E(E2)= 5.983
- Balanced Tension Regular Light(0.010 - 0.046)
1弦E(E4)= 7.360
2弦B(B3)= 7.530
3弦G(G3)= 7.520
4弦D(D3)= 7.810
5弦A(A2)= 7.810
6弦E(E2)= 7.670
- Balanced Tension Medium(0.011 - 0.050)
1弦E(E4)= 8.900
2弦B(B3)= 9.290
3弦G(G3)= 9.390
4弦D(D3)= 9.588
5弦A(A2)= 9.184
6弦E(E2)= 8.934
- Super Light(0.009 - 0.042 inch)
結果
ロングスケールでの
チューニングのテンションの計算結果は以下。
このテンションを、
ミディアムスケールに補正したものが以下。
表中のテンションの単位について
D'Addario 公式サイトでは、張力の単位は kg になっていたが、
張力はあくまで ”力” なので、"質量" とは異なる。つまり、
サイト中に記述を見つけられなかったけど、
おそらく、重量キログラム kgf
(1kg の質量が重力加速度の下でうける重力の単位)
のことではないかと考えられる。一方で、
最初の式で張力 s の単位は N となので、
本来は kgf を N に変換しなければならない。しかし、
途中式を見ればわかるように、
ダウンチューニングの張力 s' は
レギュラーチューニングの張力 s に、
周波数比を乗じればいいだけなので張力の単位は無視でき、また、
今回は張力の単位に関わらず、あくまで"比較"をしたいだけなので、
公式サイトの数値を単位 kg のまま使用した。
考察
計算結果の使い方としては、
- 他より下げる6弦は一旦置いといて、
1〜5弦の各テンションに注目する方法
- 表中の”合計”に注目して、
ネック全体にかかるテンションを見る方法
の2つがあると思うけど、
いずれにせよ、
ドロップ C# の場合は、そのまま or テンション上がるけど1つ上、
ドロップ C の場合は、1つ上のゲージに変えるのが良さそう。
逆に自分のセッティングから、
どれくらいのゲージをレギュラーチューニングしたくらいの
テンションなのかを見ていくと、
家で使っているレスポールの弦は
Elixir Medium(D'Addario EXP Medium〜と同じゲージ)で、
ドロップ C なので、ネックにかかる張力としては、
おおむね EXP Super light / Regular Bottom くらいということがわかる。
注意すべきは、
ゲージのラインナップを見ていくと、
弦の太さが比例して太くなっているわけでないので、
どのゲージのテンションと同じにするかは、
一概に、”1つ上のゲージにすれば平気”
と、言えるわけではないということ。
雑感
今回は、
各メーカーから発売されている弦の線密度を同じと仮定したり、
コーティング弦やビブラートユニットなどを考慮してないので、
鵜呑みにできるデータじゃないけど、
ダウンチューニング好きな人には
少しは参考にできるものになったのではないでしょうか(鼻ほじ)。
あと、関係ないけど
EXL シリーズは各弦の張力が一定でネックのねじれとか
無くせそうでいいですね、これ
(コーティング弦以外使う気しないけど)。
まぁ、自分的には
感覚的にやってた Elixir Medium でドロップ C が
セッティングとしてはまぁまぁいい感じ、だという
裏付けができたのでよかったです(考察が下手)。
表作ってから、
ドロップチューニング用の弦が発売されていること思い出して、
勘弁カンベンカンボジアと心で叫んだ。
誰かそれで作り直してください。お願いします。
参考
わかりやすい高校物理の部屋 弦の振動
D'Addario EXP Strings
D'Addario XL Balanced Tension Strings Sets
計算したいだけして、
考察が疎かなのは大学の時からそうだったのだけれど、
あらためてヤバいと感じたのでもっと小説読んで感受性豊かにしよう。
ちなみにこの記事書いているときの筆者の気持ちは、
(書くこと多くて大変。なんでこんな大仰な記事にしたんだろ…。
Twitter で簡単な説明だけして結果だけ投下すればよかった )
でした。